廃止されるGeminiモデルが組織で使われているか調べる方法

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G-genの杉村です。当記事では、Google Cloud の Gemini モデルなどの旧バージョンの廃止に関する注意点、そして組織内で該当モデルが使用されているかを確認する方法について解説します。

Gemini モデルのライフサイクルと廃止

Google Cloud の Vertex AI では、生成 AI モデルが継続的にアップデートされ、新しいバージョンが提供されます。モデルにはライフサイクルが設定されており、古いバージョンは将来的に廃止(retire)されることがあります。

モデルの廃止は、通常、事前に告知期間が設けられます。しかし、この期間を過ぎると対象モデルは利用できなくなるため、利用中のモデルのライフサイクル情報を常に把握し、計画的に新しいバージョンへ移行することが重要です。

廃止対象モデルとスケジュール

当記事の執筆時点(2025年5月)で、Google Cloud の公式ドキュメントに記載されている一部モデルの廃止スケジュール例を以下に示します。これらの情報は、今後のモデル廃止の参考としてご確認ください。最新情報や、実際に利用しているモデルについては、常に最新の公式ドキュメントを確認するようにしてください。また最新情報を得るため、英語版のドキュメントを参照するようにしてください。

モデル名 廃止日(Retirement date)
gemini-1.5-pro-001 2025-05-24
gemini-1.5-flash-001 2025-05-24
textembedding-gecko@003 2025-05-24
textembedding-gecko-multilingual@001 2025-05-24
gemini-1.5-pro-002 2025-09-24
gemini-1.5-flash-002 2025-09-24

なお、上記のモデルはすでに、新規作成された Google Cloud プロジェクトや、過去にこれらのモデルを使ったことのないプロジェクトでは利用不可になっています。

「廃止日」を迎えると、そのモデルへの API リクエストは 404 Not Found エラーとなります。

これらのモデルを利用している場合、廃止日までに後継のモデルへの移行を完了させる必要があります。

廃止予定モデルの使用状況確認方法

概要

廃止予定のモデルが、自組織の Google Cloud 環境で使用されているかを調査するには、以下の方法があります。

  1. 課金レポートでの確認
  2. データアクセス監査ログでの確認

前者の課金レポートでの確認では、ある請求先アカウントに紐づくすべてのプロジェクトで、特定のモデルが使われているかどうかを確認できます。課金情報から確認するので、全体的な使用ボリュームや、組織の中のどのプロジェクトで利用されているかを把握できます。

後者のデータアクセス監査ログでの確認では、プロジェクトのレベルで、どのクライアントから API が呼び出されているか、どの時間帯で利用されているか、などの詳細を確認できます。ただし、プロジェクトや組織でデータアクセス監査ログが有効化されている必要があります。組織レベルで監査ログを集約している場合は、組織全体の利用状況を確認することもできます。

課金レポートからの確認

Google Cloud の課金レポートを参照することで、利用しているサービスとその SKU(Stock Keeping Unit)を確認できます。廃止対象のモデルを利用している場合、そのモデル名を含む、あるいは関連する SKU が課金レポートに表示される可能性があります。

確認手順の概要は以下の通りです。

1. Google Cloud コンソールの「課金」ページに遷移(上部検索ボックスで「課金」と入力し、サジェストされる「課金」を選択等)
2. 「リンクされた請求先アカウントに移動」を押下、もしくは「請求先アカウントを管理」から対象の請求先アカウントを選択
3. 左部メニューから「レポート」を選択
4. 右部フィルタで、グループ条件を「プロジェクト」に変更

右部フィルタで、グループ条件を「プロジェクト」に変更

これにより、グルーピングの条件がプロジェクトになり、プロジェクトごとの料金が表示されます。

5. 右部フィルタで、SKU を「Gemini 1.5」などで絞り「フィルタされた結果の数」の横のチェックボックスを押下して全選択

右部フィルタの SKU

SKU を廃止予定モデル名などで絞り「フィルタされた結果の数」の横のチェックボックスを押下して全選択

これにより、各プロジェクトで Gemini 1.5 と名前のつく課金 SKU がどれだけ発生しているかが確認できます。SKU の名称は、モデルの種類や利用方法(例: Prediction、Training)によって異なるため、詳細はご自身の課金レポートをご確認ください。また、生成 AI 関連の SKU の一覧は、以下のドキュメントに記載されています。

この画面では、プロジェクトを絞ったり、グルーピング条件を SKU にするなどして、どのプロジェクトでどの課金がどれだけ発生しているかを確認できます。

この方法により、同じ請求先アカウントに紐づくすべてのプロジェクトの請求状況を横断して確認できるので、廃止予定のモデルが組織内のどのプロジェクトでどれだけ使われているか、横串で確認することが可能です。

データアクセス監査ログでの確認

廃止予定モデルを使っているプロジェクトが確認できたら、次はプロジェクトレベルで、どのモデルが呼び出されているかをより詳細に確認することができます。

Cloud Audit Logs のデータアクセス監査ログを利用することで、呼び出し元クライアントの情報、日時、認証情報などが確認できます。この方法を利用するには、API 呼び出しに先んじて、プロジェクトで Vertex AI API のデータアクセス監査ログが有効化されている必要があります。データアクセス監査ログは、デフォルトでは無効になっているため、設定を確認し、必要に応じて有効化してください。

Cloud Audit Logs やデータアクセス監査ログの詳細については以下の記事を参照してください。

blog.g-gen.co.jp

データアクセス監査ログが有効な場合、Cloud Logging のログエクスプローラで以下のようなクエリを実行することで、特定のモデルの呼び出しログを抽出できます。

protoPayload.resourceName:(
  "gemini-1.5-pro-001"
  OR "gemini-1.5-flash-001"
  OR "textembedding-gecko@003"
  OR "textembedding-gecko-multilingual@001"
)

このクエリは、protoPayload.resourceName フィールドに指定されたモデル名が含まれるログエントリを検索します。resourceName には、呼び出された Vertex AI エンドポイントやモデルリソース名が含まれるため、これによって廃止対象モデルの利用状況を確認できます。

推奨される対応

廃止対象のモデルを利用していることが確認された場合は、以下の対応を検討します。

  1. 後継モデルの調査と選定
    • Google Cloud のドキュメントを参照し、廃止対象モデルの機能や特性をカバーできる後継の安定版モデルや、より新しいバージョンのモデルを選定
  2. 移行計画の策定
    • アプリケーションコードの修正、テスト、デプロイメントスケジュールを含む移行計画を策定
  3. 段階的な移行とテスト
    • 可能であれば、一部のトラフィックから新しいモデルに移行し、動作検証を十分に行った上で全面的な移行を実施
  4. 情報収集の習慣化
    • Vertex AI のリリースノートや、Google Cloud からの通知を定期的に確認し、利用中サービスのライフサイクル情報を常に最新の状態に保つ

モデルの廃止は、セキュリティの向上、パフォーマンスの改善、新機能の提供といったメリットを享受するために必要なプロセスです。計画的な対応を心がけることで、サービスへの影響を最小限に抑えることができます。

杉村 勇馬 (記事一覧)

執行役員 CTO / クラウドソリューション部 部長

元警察官という経歴を持つ現 IT エンジニア。クラウド管理・運用やネットワークに知見。AWS 認定資格および Google Cloud 認定資格はすべて取得。X(旧 Twitter)では Google Cloud や Google Workspace のアップデート情報をつぶやいています。