本記事では、Google のノーコード開発ツールである AppSheet の管理者向けに、導入戦略のベストプラクティスをご紹介します。
はじめに
AppSheet とは
AppSheet は、Google が提供するノーコードのアプリ開発プラットフォームです。
プログラミング不要で、スプレッドシートなどのデータを基に、モバイルアプリや Web アプリを作成できます。特に興味深い点は、業務担当者などが開発出来るという点です。例えば次のようなアプリを、比較的短い開発期間で作成することが出来ます。
- タスク(案件)管理アプリ
- ワークフロー
- 在庫管理アプリ
- 勤怠管理アプリ(シフト管理アプリ)
AppSheet では豊富なテンプレートが用意されているのも特徴です。以下のリンクから、多くのテンプレートが取得できます(2024年5月現在は英語のみの提供です)。
- 参考 : AppSheet - Templates
また、G-gen Tech Blog の過去の AppSheet 関連記事では、具体的なユースケースや開発手法をご紹介していますので、ぜひご参照ください。
当記事について
当記事では導入戦略のベストプラクティスを記述します。当記事でご紹介するベストプラクティスは、Google Cloud が公式でオンラインハンズオンを提供するサイトである Google Cloud Skills Boost のプログラム「AppSheet Administration」にもとづいています。
以下のリンクから、当該プログラムを実体験していただくことが可能です。
Google Cloud Skills Boost は、2024年4月に行われた旗艦イベント「Google Cloud Next '24」で、法人向けの無償化が発表されました。詳細は、Google Cloud もしくは G-gen のような販売パートナーのセールス担当へご連絡ください。
開発モデルの選択
AppSheet 導入における最初の重要なステップが開発モデルの選択です。
AppSheet の開発モデルは、次の3つが考えられます。
- 集中開発モデル
- ハイブリッド開発モデル
- 市民開発モデル
集中開発
少数の開発者ですべてのアプリを開発するモデルです。従来通りのシステム開発をイメージに近いといえます。
- メリット: ガバナンスと品質管理が容易
- デメリット: 相対的に開発速度が遅く、敏捷性に欠ける
ハイブリッド開発
中核となる開発チームがトレーニングとサポートを行い、市民開発者によるアプリ開発を促進するモデルです。
市民開発とは、プログラミング経験のない現場の業務担当者などが、ノーコード・ローコードツールを活用して、必要なアプリケーションを自ら開発していくことです。
アプリ開発の中心は市民(業務担当者など)が行い、開発チームはその支援を行っていく点が特徴です。
- メリット: 相対的に開発速度が速く、柔軟性が高い
- デメリット: ガバナンスと品質管理が難しい
市民開発
完全に市民開発者のみでアプリを開発します。自由に開発出来るため柔軟性が高い一方で、品質管理やガバナンスの難しさがあります。
- メリット: 開発速度が最も速い、イノベーションを起こしやすい
- デメリット: ガバナンスと品質管理が最も難しい
ガバナンスモデルの策定
ガバナンスモデルとは、組織の中で AppSheet アプリの開発や運用を統制する方式のことです。
AppSheet には、以下の2つのガバナンスモデルがあります。
- スタンダードモデル : 3種類の権限(ルート管理者、チーム管理者、チームメンバー)を持つシンプルなモデル
- 組織モデル : 4種類の権限(組織管理者、ルート管理者、チーム管理者、チームメンバー)を持つ、より細かく制御可能なモデル
組織モデルは、以下の両方に該当する場合に選択します。それ以外のケースでは、スタンダードモデルを選択してください。
- 複数のユーザーグループを作成し、個別にポリシーを割り当てたい。
- 上記のポリシー管理を含めた、AppSheet 管理権限をグループごとに権限移譲したい。
導入企画のステップ
1. ステークホルダーを特定する
まず、AppSheet 導入に関わるステークホルダー(関係者)を特定します。これは、経営者、IT部門、業務部門など、様々な立場の人々が含まれます。
このステップでは、それぞれのステークホルダーが、AppSheet 導入に対してどのような期待を持っているのかを把握しましょう。
2. 実行チームを組織する
次に、AppSheet 導入を推進するチームを組織します。このチームは、プロジェクトリーダー、IT担当者、業務担当者などで構成されます。
IT担当者や業務担当者は、採用するガバナンス戦略に応じて人数を検討してください。例えば、集中開発の場合はIT担当者の数が多くなるかもしれません。
3. 目標と優先順位を決定する
AppSheet 導入の目的と目標を明確にし、優先順位を決定します。例えば「どういった使い方をするか」、「どういったユースケースを優先するか」を明確します。
ステークホルダーやガバナンス戦略を踏まえて、「何を達成するために AppSheet を導入するのか」を検討しましょう。
4. ゴールを定義し、追跡する指標を決定する
AppSheet 導入の成果を測定するためのゴールと指標を定義します。
# | ゴール例 | 指標例 |
---|---|---|
1 | アプリの開発数をX件にする | 四半期ごとの開発アプリの数 |
2 | アプリの利用者数をY人に増やす | 四半期ごとのアプリ利用者累計数 |
3 | アプリの利用時間をZ時間に増やす | 四半期ごとのアプリ累計利用時間 |
5. ガバナンス戦略に合わせて、導入ステップを計画する
ガバナンス戦略に基づいて、具体的な導入ステップを計画します。
導入ステップの検討は採用するガバナンス戦略や会社の規模、取り組む状況に応じて様々な選択肢がありますので、本記事では解説を割愛します。
役割の設計
具体的には、以下の役割を定義する必要があります。
- ルート管理者 : AppSheet 環境全体を管理する権限を持つユーザー
- 組織管理者 : 組織全体のポリシーを管理する権限を持つユーザー(組織モデルのみ)
- チーム管理者 : チーム内のポリシーを管理し、ユーザーを管理する権限を持つユーザー
- チームメンバー : AppSheet を利用してアプリを作成するユーザー
ガバナンスポリシーの設計
事前定義されたポリシーを活用し、自社の利用に合わせたポリシーを設計します。 ガバナンスポリシーを設定することでガードレールが設定され、安心して市民開発を推進することが出来ます。
三木宏昭 (記事一覧)
クラウドソリューション部
HROne→ServerWorks→WealthNavi→G-gen。AWS 11資格、Google Cloud認定全冠。Google Cloud Partner Top Engineer 2024。Google Authorized Trainer
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