G-gen の杉村です。当記事では、Google Cloud Next '24 in Las Vegas の総括(総評と、注目すべきアップデートのご紹介)をお届けします。セッションレポートなど、Google Cloud Next '24 の関連記事は Google Cloud Next '24 カテゴリの記事一覧からご覧いただけます。
Google Cloud Next '24 in Las Vegas
2024年4月9日(火)から11日(木)までの3日間、米国ネバダ州のラスベガスで、Google Cloud Next '24 が行われました。
本投稿では、Google Cloud Next '24 の3日目終了時点で、現地で参加した筆者による総評と、注目すべきアップデートの紹介を行います。
当社によるセッションレポートや、1日目・2日目のキーノートに関する記事は、以下の一覧からご参照ください。
総評
生成 AI 発表ラッシュ
Google Cloud Next '24 は、昨年にサンフランシスコで行われた Google Cloud Next '23 と同じく、生成 AI をフィーチャーしたものになりました。
キーノート(基調講演)は多分にマーケットを意識した発表となっており、生成 AI が Google Cloud を補助して使いやすくしたり、業務スピードを向上させる機能に関する発表が目立ちました。
今回の Next では、Gemini の名称を Google Cloud ユーザーに印象付けるがごとく、「Gemini in 〇〇」「〇〇 with Gemini」の文言が繰り返し登場しました。Google Cloud は当初、生成 AI 基盤モデルを Gemini として呼称していましたが、その後、生成 AI による業務補助ツール群「Duet AI」や、コンシューマ向け生成 AI チャットツール「Bard」の名称を廃止し、生成 AI 関連プロダクトの呼称を「Gemini」に統一しました。これは、Microsoft が生成 AI による業務補助製品群を Copilot としてブランド名の統一を図ったことと似ています。
キーノートの内容は、以下の当社記事をご参照ください。
例として、Gemini in BigQuery や Gemini in Looker が挙げられます。BigQuery のユーザーや Looker のユーザーは、自然言語による指示で、SQL を自動生成してデータベースに問い合わせたり、データを可視化することができます。これまで SQL を理解するエンジニアや一部のマーケターのみのものだった BigQuery が、よりビジネスユーザーにとって身近になるといえます。
Gemini for Google Workspace では、Google Vids の発表が印象的です。動画の編集を生成 AI が補助するツールであり、自然言語による指示にもとづいて、ストーリーボードやスクリプト(台本)を生成します(あくまでユーザーが所持する既存の動画像を組み合わせるものであり、動画自体の生成はまだできるようにはならないとのことです)。また AI Meetings and Messaging add-on は、ビデオ会議において様々な言語にリアルタイム翻訳を行うものであり、直接的に業務を効率化させうるものです。
また Vertex AI Agent Builder や Vertex AI Prompt Management など、生成 AI 開発に関する機能拡張も発表されました。
ただし、技術者からの目線では、キーノートはコンセプチュアルな発表に留まった印象でした。講演内でモニターに映し出されたデモ画面は、架空の EC サイトや、発表された新機能を用いて開発された架空の生成 AI アプリを模した画面であり、実際の詳細な実装方法やインターフェイスの解説は、個別のブレイクアウトセッションに任されました。しかしながら、事前のセッション登録では、「どのセッションで新発表がされるか」「キーノートで発表された新機能はどのセッションでより詳しく聞けるのか」について推し量ることはできなかったため、現地での参加者は情報を効率的に得ることが難しく、これは今後の情報収集方法に関する当社の課題となります。
また、今回の発表で、かつて「Gemini for Developers」を呼ばれていたものは「Gemini Code Assist」となり、「Gemini in Google Cloud(それ以前は Duet AI for Google Cloud)」と呼ばれていたものは「Gemini Cloud Assist」を含む複数の「Gemini in 〇〇」を包括するサービスとなる、などサービス命名にゆらぎが見られたことから、名称や機能の役割分担については整理が必要です。
生成 AI だけでない、サービスの進化
ここまでの総評や、SNS で注目されがちな情報の傾向から、今回の Next の発表は生成 AI 一色だったかのように思われるかもしれません。しかしながら、実際には生成 AI 以外の注目すべき発表が、数多くされています。
BigQuery に関する個別セッションでは、GUI でデータ準備を行う新機能や、ビジュアライズされた簡易ワークフローツール、また BI ツールからのクエリの最適化機能が発表されました。また、BigQuery のオペレーションに関する機能の拡張も発表されており、BigQuery を使ったデータ分析基盤を運用する当社としても、オペレーションの効率化を予感しています。
Cloud Run は、マルチリージョンへのデプロイ、ベースイメージのアップデートの自動化、VPC リソースへの直接アクセスを可能にする Direct VPC Egress の GA など、注目すべきアップデートが発表されています。
Cloud IAM においても、承認者の承認を経て時限付きの IAM ロール付与を可能にする Privileged Access Manager(PAM)が発表され、組織規模のクラウド運用をよりセキュアにすることができます。
これらの一つ一つが、基調講演でフィーチャーされていても不思議ではないアップデートです。当社では、Google Cloud 専業として、これらのアップデートが "埋もれない" ように情報の整理と発表をする必要性を感じています。
注目の発表
はじめに
当記事ではここから、当社の現地参加者が注目した技術的な発表事項を一部、ご紹介します。詳細は併記されているセッションレポート等をご参照ください。
なお、Google Cloud Next ‘24 で発表された全事項は、以下の公式記事にまとまっています。
ただし、中には今回のイベントが初出でない事項等もあります。上記の記事では「初出情報か・既出情報か」「初出であれば、その機能アップデートはすぐに使えるか、それとも将来の公開予告か」の区別は難しくなっています。当記事では、可能な限りその区別ができるように記載します。
Grounding generative AI with Google Search
Vertex AI の Gemini API 経由でのコンテンツ生成時に、Google Search(Google 検索)でのグラウンディングを行うことができるようになります。Private Preview として、申し込みが可能になっています。
これまで、Vertex AI が対応していたグラウンディング先のデータストアは、ユーザが用意する PDF やテキストデータ(Cloud Storage)、Web サイト、BigQuery などでした。今後は、Google 検索をグラウンディングに使うことができるようになり、より汎用的な RAG 構成を実現できます。
Vertex AI Agent Builder
Vertex AI Agent Builder が Preview 公開されました。Vertex AI Agent Builder は、フルマネージドの生成 AI Agent です。ここでの「Agent」とは、生成 AI が人間の代わりに複雑なタスクを実行するための仕組みを指しており、これまで LangChain 等のフレームワークで実装されていました。
Multi-region services / Direct VPC Access(Cloud Run)
Cloud Run において、同一サービスを複数のリージョンにデプロイする Multi-region services の Private Preview が発表されました。
また、これまで Preview 状態だった Direct VPC Egress が一般公開(GA)となりました。「一度スケールアウトするとスケールインできない」という課題があった VPC アクセスコネクタが不要になるアップデートであり、Cloud Run のネットワーク構成のベストプラクティスが変わります。
Gemini in BigQuery(データキャンバス)
自然言語による指示をすることで、BigQuery にクエリを投入したり、データの可視化を行うことができるようになります。同機能は Gemini in BigQuery による「データキャンバス」として Private Preview 公開されました。フォームから申し込み可能になっています。
BigQuery の非・生成 AI アップデート
BigQuery の非・生成 AI 関連アップデートとしては、以下が注目されます。ただしいずれも、2024年4月15日現在では、使用可能になっていません。
機能名 | 状態 | 概要 |
---|---|---|
BigQuery data preparation | Preview | GUI でのデータ変換 |
BigQuery workflows | Preview | 簡易ワークフロー |
BigQuery continuous queries | Preview | ストリーミングデータに対するクエリ実行 |
Cross-region disaster recovery | Preview | リージョンをまたいだ DR(災害対策) |
Query acceleration improvements | GA/Preview | クエリの最適化機能群 |
Privileged Access Manager(IAM)
承認者の承認を経て、時限付きの IAM ロール付与を可能にする Privileged Access Manager(PAM)が Preview 公開予定です。2024年4月15日現在では、使用可能になっていません。
リクエスト者が、権限の付与を承認者に申請し、承認された場合、指定された期間のみ、IAM ロールが付与されます。これにより、本番環境における特権管理で一般的な、時限付きの特権管理が可能になります。
Cloud Service Mesh
マイクロサービスにおけるサービスメッシュを実現するフルマネージドサービスである Cloud Service Mesh が発表されました。公開は "this quarter" とされており、2024年の2Q(4月〜6月)が予定されています。
従来から存在する Anthos Service Mesh が発展したものとなる見込みです。
Cloud NGFW (Next Generation Firewall)
Cloud NGFW (Next Generation Firewall) は、従来から存在した Cloud Firewall が改名したものです。Cloud Firewall は数年をかけて機能強化とソリューションとしての再整理を続けていましたが、今回の Next を機に Cloud NGFW と改称し、料金ティアを明確にして再出発した形です。
Org policies(AppSheet)
AppSheet で、組織、チーム、個人の単位でポリシーが設定可能な Org policies(組織ポリシー)が GA されます。アプリ内でのデータ削除の制限、オフライン利用の有効化等が、一律のポリシーとして設定できます。
杉村 勇馬 (記事一覧)
執行役員 CTO / クラウドソリューション部 部長
元警察官という経歴を持つ現 IT エンジニア。クラウド管理・運用やネットワークに知見。AWS 12資格、Google Cloud認定資格11資格。X (旧 Twitter) では Google Cloud や AWS のアップデート情報をつぶやいています。
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